惑溺
 
「気付けばもう30歳目前で、周りからも結婚しないのかって圧力かけられてきてさ。
正直由佳との恋愛よりも、その先の結婚の事ばかり考えてた。
由佳、そんな俺の本心に気付いてたんだろ?」

静かにそう言った聡史に、私は無言で頷いた。
付き合ったばかりなのにどこか冷めた関係。
プロポーズも素直に喜べなかった自分。
お互いに、なんとなく違和感を感じてたんだ。

「由佳と俺の結婚に対する温度差があったの、自分でもわかってたんだけど。
焦って強引にブライダルフェアにつれてったり、婚約の約束したりして。
俺も馬鹿だよな……」

はじめて聞く聡史の本音。
彼の酷く情けなくて人間らしい弱い部分。
それを聞いて嫌いになるどころか、なんだか逆にほっとした。
もし、最初から素直に本音を言い合えていたら、もっと聡史を身近に思えることができたかもしれない。

 
「だから、由佳に他に男がいるんじゃないかって勘付いた時も、こんな俺なら浮気されてもしょうがないって、心のどこかで妙に納得した」

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