惑溺


「もう、傷つきたくないの……」

ずるいってわかってる。
聡史の優しさを利用する卑怯で醜い自分。

だけど、誰かに寄りかからないと、ひとりでは立っていることさえ出来なかった。

「由佳、何かあったのか?」

冷えきった私の頬に触れた聡史の手のひらは、やっぱり私と同じように冷たかった。
どうしても思い出してしまうリョウの熱い指先の感触を、きつく目をつぶって振り払う。

「……お願い聡史。
全部、忘れさせて」

私の掠れた声に、聡史の表情が苦しげに歪んだ。
自分の苦しみから逃げる為に、私は聡史を利用して苦しめる。


聡史はきっと分かってる。
愛なんてないんだって。

それでも聡史は私を抱きしめて、部屋の鍵を開けた。
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