惑溺
 
そのシンプルな赤い手帳の表紙の手触りも、その中にびっしりと書き込まれたあの頃の自分の葛藤も

そして、
――あの人の唇の感触も。



驚くほど鮮明に、私の胸に蘇った。

私は微かに震える指でそっと赤い手帳に触れる。

つけっぱなしのテレビから流れる、やけに陽気なクリスマスソングを聞きながら、ゆっくりと3年前の11月のページを開いた。



そう、あれはもう3年も前の出来事……



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