惑溺
 

あの人が電話をかけてくる。



思い出すのは、昨夜聞いたあの艶のある印象的な声。
静かに目を伏せて口元だけで笑う綺麗な顔。

あの人が私の携帯に電話をかけてくる。
そう思うだけで、勝手に鼓動が早くなりどうしようもないくらい落ち着かない気分になった。

博美との電話を切った後、私は自分の携帯をテーブルの上に置いてじっと眺めていた。



どのくらいそうやって電話を眺めていたんだろう。私は足の痺れで我にかえった。

こんなに緊張して電話を待ってるなんて、私バカみたい。
二日酔いのだるさも抜けたし、シャワーでもあびようかな。

大きく伸びをしながら立ち上がった途端、テーブルの上の携帯が鳴りだした。
< 32 / 507 >

この作品をシェア

pagetop