惑溺

画面に表示された知らない11桁の番号からの着信。
手を伸ばそうとして、自分の鼓動の速さに気づいた。

ただの電話で何をそんなに緊張してるんだろ。
動揺しすぎの自分に呆れながら、小さく咳払いをしてから携帯電話に手を伸ばした。


「はい。もしもし」

恐る恐る声を出すと

『もしもし。松田、由佳さんですか?』

昨夜聞いた、あの低く艶のある声が電話を通して聞こえてきた。
耳元で響いたその声に、思わずぞくりとする。

なんでだろう。
この人の声を聞くと、心の内側をゆっくりとなでられるような、決して不快ではないのに酷く落ち着かない気分にさせられる。


『もしもし?』

ぼんやりとしたまま返事をしない私に、少し苛立ったように電話の向こうから聞こえる声が低くなった。
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