惑溺
 
俺の言葉に由佳は驚いた様に顔を上げ

「違うの」

そう言って首を振った。

「聡史と結婚したのは私じゃないよ」

その言葉に驚いてグラスを持つ手が止まった。
結婚したのは由佳じゃない?

「聡史は全部気付いてて、知らない振りをしてたの。
私が浮気をしていたのも、相手がリョウだって事も、本当は知っていたの。
私と聡史はあの日、クリスマスイブにきっぱり別れたの」

由佳は驚くほどすっきりとした表情でそう言った。



『お前のだろ?ちゃんと大事にしろよ』

俺と由佳とのことを全部知っていて、俺にそう言った言葉の真意。
そして大切に手渡されたシュシュ。

その時もう二人が別れていたなら、
鈍感だったのは俺の方か……。

思わず大きなため息が出た。
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