惑溺
 
グラスを持つ赤いマニキュアの塗られた指に、指輪がはまっていないのは最初から気付いていた。
その事に変な期待をするほど俺は馬鹿じゃない。
あれからもう三年もたった。
俺だってあれからずっと一人でいた訳じゃない。

……だけど。

クリスマスイブにもう一度こうやって出会えた事が、俺にあの頃の気持ちを思い出させた。




「……そうだ!」

由佳は独り言の様に呟くと、書店の名前が入った紙袋を開いた。

「何?」

覗き込むと、そこから取り出したのはシンプルな赤い手帳。

「今日買ったの、来年用の新しい手帳。
名前と連絡先だけ書いておこうと思って。どこかに置き忘れても大丈夫なように」

そう言ってペンを持つ由佳を見て、思わず笑いが漏れた。
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