惑溺
 
「……え?」

ぽかん、として俺を見る表情で我にかえった。
何を馬鹿な事を言っていんだ、俺は。
酔っ払いの戯言に影響されるなんて馬鹿か。

「悪い。なんでもない」

苦笑しながら目をそらすと、頭上から由佳の穏やかな声が聞こえた。

「知ってるよ」

その声に顔を上げると、由佳はもう階段を登りきり、雪の降る街の中へと歩き出していた。
一度も振り返らないまま、その後ろ姿は白い雪に紛れて消えていった。



俺は大きく息を吸い込み、扉を閉めて店を見渡す。
由佳の残したグラスを下げようとした時、カウンターの隅の目立たない場所に赤い物を見つけた。
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