惑溺

エレベーターで6階へと上がり、教えられた番号の部屋のインターフォンをならしてしばらく待っていると
ガチャリと部屋のドアが開いた。

ドアの隙間から見えた、大きくて筋ばった男らしい手に思わずドキンとしてしまう。

開いたドアの隙間から、ちらりと彼が顔を覗かせるとろくに私の事も見ないで

「入って」

と、そっけなく言い、またすぐに室内へと戻ってしまった。

「ちょっと、待って……」

私は手帳を受け取りに来ただけなんだから、部屋になんて入らないよ!

そう言おうと思ったのに、彼はもう部屋の中へと行ってしまって姿が見えなくなっていた。


……しょうがないか。


私はまた大きくため息。
玄関で靴を脱ぎ、狭い廊下を抜けてリビングに入ると、まるで中はバーのようだった。

「うわぁ……!」

綺麗に並んだいくつものお酒のボトルに思わず声をあげてしまう。
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