惑溺
 
こんな険しい表情の私を前に、一緒にプリンを食べようなんて。
この人相当いい性格してる。

「コーヒーでいい?」

「はぁ……」

「突っ立ってないで座れば?」

「はぁ……」

完全に文句を言うタイミングを逃した私は、そう言われて大人しくソファに座りながらキッチンに立つ彼を眺めていた。

細口の、銀色のカフェボトルでお湯を沸かし、ペーパーフィルターの上のコーヒーに手際よくお湯を注ぐ。

バーでカクテルを作っている時もそうだったけど、彼の動作は無駄がなくて綺麗だった。
ひとつひとつの手の動きや視線や瞬きまで、その振る舞い一つ一つが目を奪うほど優雅に見える。

いつも人に見られていることに慣れて、どうすれば人の心を掴むのか熟知しているかのような動き。

思わず彼の指先にみとれてため息がでてしまう。
< 43 / 507 >

この作品をシェア

pagetop