惑溺
その長い指先が、私の為に温かいコーヒーを用意してくれるのをぼんやりと眺めていると
「見惚れすぎ。ヨダレたらしそうな顔してる」
不意に視線を上げた彼が、黒い髪の間から覗く瞳を微かに細め小さく笑った。
ヨ、ヨダレなんて……!
ただちょっとぼんやりしてただけなのに!!
この人せっかく綺麗な身のこなしなのに性格は最悪。
こんな性悪男に見惚れていた自分が悔しい。
彼はその綺麗な手でコーヒーカップをテーブルに置くと、紙袋から小さな瓶に入ったプリンをふたつ取り出し、銀色のスプーンと一緒にひとつを私に手渡す。
「あ、ありがとうございます」
プリンを受け取る時に、一瞬触れた指先。
思わずどきんと体が震えた。