惑溺
 

「4年前?」

「そう、4年前の今日。由佳が初めてこの店に来た日」

そう動いた彼の唇に、どきんと胸が締め付けられた。
グラスを持つ手が微かに震えた。

「あの日もカウンターの中にいる俺を、その表情でじっと見つめてた」

「……うそ」



なんだろう、どうしようもなく胸が苦しい。

切なさとも悲しさとも違うけれど、胸が痛いほどに締め付けられて
息もできないくらい、苦しい。



「4年前の今日、ここで出会った。
由佳はカウンターの端の席に座ってた。
……覚えてる?」



覚えてるよ。
忘れられるはずがない。


< 439 / 507 >

この作品をシェア

pagetop