惑溺
携帯電話の画面に表示したリョウの番号を睨んで、電話をかけようか迷う。
頭に浮かぶのは、キスをした後のからかうようなリョウの顔。
その表情を思い出しただけで腹がたった。
こうやって悩んでいるなんて時間の無駄だ。
さっさと電話をして、鍵を返してすっきり縁を切ろう。
そう自分に言い聞かせ、勢いでその番号に発信した。
『もしもし?』
電話から聞こえてくる相変わらず魅力的な声。
一瞬どきんとしてしまう自分の鼓動を咳払いで押し黙らせ、私は感情が出ないように事務的な口調で返した。
「手帳に鍵がはさまってたんですが、あなたのですか?」
『ああ、鍵ね』
聞こえてきた笑いを堪えたようなリョウの声に思わずカッとなった。
「もしかして、わざと鍵はさんだの!?」