惑溺
 
「あ、木本さんお疲れ様です。温かいコーヒー飲みますか?」

丁度外から帰ってきたばかりなのかな。
少し寒そうに手を擦り合わせる木本さんにそう言って、コーヒーメーカーを指さすと

「いい、いい。松田さん帰る所だったんだろ。
聡史が待ってるのに引き留めたら後から起こられるし」

さっき私が携帯電話のメールをチェックしてるのを見て、これから聡史と会うんだと察したんだろう。
木本さんは笑いながら顔の前で手をひらひらと振った。

「聡史は元気にしてる?」

「あ、はい」

会社の先輩の木本さんは、私に聡史を紹介してくれた人だ。
半年前、木本さんの結婚披露宴に招待された時、新郎の学生時代からの友人として聡史もその場にいたらしい。
その時私を見た聡史が、木本さんに紹介してと頼んだのがきっかけで私たちは付き合う事になった。
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