惑溺
 
「別に会話が続かないとか、セックスが単調だとか言うつまんなさじゃなくて」

「…………」

さらりとセックスとか言わないでほしい。
会社の先輩に給湯室でそんな事言われるのは立派なセクハラ行為だと思うけど、とりあえず私はその言葉は聞こえなかったことにして黙殺する。

「よく言うじゃん。交際相手と結婚相手に求める条件は違うって」

「はぁ……」

彼の言わんとする事がいまいち理解できなくて曖昧に返事をすると、木本さんは白い煙を吐き出しながら笑った。

「聡史は一緒なんだよね。
っていうか交際イコール結婚みたいな。結婚を見据えたうえで恋人を選んじゃうタイプ。
昔から結婚願望強い奴だったからしょうがないのかもしれないけど」

昔から結婚願望が強かった。
その言葉に、聡史からの唐突なプロポーズを思い出した。

「それが女の子には物足りなかったり、退屈だったりするんじゃないかなと思ったんだけど。
松田さんがそう思わないならいいや」

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