ランデヴー II
そんな彼に何事もないかのように装い、空々しい顔で『気を付けて行ってきてね』と返信する私は、何て酷い女なんだ、と。


罪悪感に唇をキュッと噛み締め、隣に座る倉橋君に視線を向ける。



そっぽを向いたまま規則正しく上下する背中を見ると、どうやら眠っているようだ。


私はテーブルに肘を突いて、その無防備な背中を眺めた。



細身の体に沿ったニットは上質そうで、思わず触れたくなる。


ふわふわの茶色い髪も、華奢そうに見える背中も、変わらない。



でも私は、その体が見た目以上に逞しいことを知っている。


彼の腕に抱き締められ、泣いたこともある。


あの頃のことを思い出すだけで、胸が深く抉れる程に切ない気持ちが込み上げた。



今……彼の心を覆う闇は、一体どれ程深いものなのか。


背を向けて眠っている姿から窺い知ることはできないが、彼の為に何かをしてあげたい。



深く傷付いた心を、少しでも癒やしてあげたい。


重い何かに押し潰されそうだったら、そこから救い出してあげたい。


そう強く思う心は、そう簡単には止められない。
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