猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した
圧せられる声音。糾弾されたわけでもないのに、正直に白状しなけれはならないというジレンマさえ覚えた。
「それ、は……っ」
「答えてよ。答えなさい。待たせないで。“私”、優しくないから」
――うっかり、殺しちゃう。
告げる口が薄く笑った。
白状を期待する耳には地に貼り付けられた死に損ないのむせび泣き、死にたくないの懇願が露になったそれと――背後から水の音。
地の利を生かしたエレナの聴力は、後ろでまた何かあったなと目線を向けさせる。
「少なくとも、私狙いでないのは分かった」
いたのはルカ。
毅然とした立ち方は凛々しくも、その足元で人殺しをしていれば酷さを孕む。
ルカの足元にはみぞおちを殴打され、地に伏せたはずの暗殺者。あの段階ではまだ死んでなかったものの、細い刃が首に貫通していた。