さくら色 〜好きです、先輩〜
時刻は19時を回った。
街灯と家の灯りを頼りに閑散とした住宅街を、恭介と人一人分の間隔をあけて歩く。
何を話したらいいのかわからなくて、私はずっと足元を見ていた。
いつもは気にならないのに、恭介が鞄を持ち直したり頭を掻いたり、その一つ一つの動作が気になって仕方無い。
「葵」
長い沈黙を破ったのは恭介だった。
「…っは、はい!?」
緊張で声は裏返り、無意識に背中をピシッと正してしまう。
「ぷっ!あはははは!何緊張してんだよ。らしくねぇな」
「…きょ、恭介…?」
恭介は拍子が抜けるくらい普通で。
緊張していた自分が馬鹿らしく感じた。
「昨日のこと気にしてる?」
「…私ね…」
「ストップ!何も言うな」
そう言って、恭介は私の口を手で抑えた。
口に触れる恭介の手は大きくて角張っていて、暖かかった。