時は今
雨音を聴きながらいつのまにか眠ってしまったようだ。
眠ってしまいたかったのだ。ずっと考え事をしていると余計に身体が参ってしまう気がして。
「──四季。帰ろう」
由貴が鞄を持ってきてくれて目を覚ました。
先刻の忍の涙がすぐに脳裏をかすめてゆく。気にしないようにする方が無理だ。
「どうかした?」
「…ううん。涼ちゃんは?」
「今日は智と帰るって」
「何かごめん」
「謝ることじゃないよ。こういう時は仕方ないし」
「……」
「何かあった?」
「少し。ごめん、話せない」
話しても忍も由貴も涼も困るだけのような気がして、四季はやんわりとした言葉でかわした。
四季がこういうかわし方をするのはめずらしい。由貴は不安になる。
「俺にも話せないようなこと?」
由貴の心配がわかったらしい。四季が安心させるように言った。
「僕のことじゃないから、由貴が気にすることないよ。大丈夫。たぶん」
「そう」
由貴は「俺が知らないうちにまた身体どこか悪くしているとかごめんだからね」と怒ったような調子で言った。
由貴は病気で母親を亡くしているせいか、周りの人間の体調にひどく敏感だ。
四季は立ち上がると「本当に何処も悪くしていないから、心配することないよ」と、軽く由貴を抱きしめた。
「僕は良くなるって決めてるし、体調が良くない時はこうしてきちんと言うから」
由貴はそれを聞いてほっとする。不覚にも涙がこぼれてきた。
「ちょっと…。由貴?」
四季は由貴の表情を横目で窺って、抱きしめたままぽんぽんと叩く。
「由貴がこうだと僕は倒れることも出来ないね」
「倒れる前提の生き方するな。バカ」
「ふふ。僕今日バカって言われるの二度目」
「誰に言われたんだよ」
「秘密」
「四季、バカじゃないし」
「由貴、言ってることめちゃくちゃだよ。可愛いけど」
「うるさい」
雨が上がったようだ。「帰ろうか」と四季が呟く。
由貴が頷いた。