時は今
忍は涼の家においてもらっている。なかば養女扱いであるのだが、肝心な忍の両親がふたりとも蒸発同然であるため、正式な養女というわけではない。
本当の親が現れた時に何かあると忍本人が困るだろうからという理由で、涼の父親がそう配慮してくれたのだ。
(今さら親が現れても何もないと思うけど…)
忍は自分でも怖いくらいに親に対しての気持ちというものがなかった。
自分は必要とされていただろうか?それでも育ったということは、それだけ誰かの手があったからなのだろうけど…。
あの時愛されていた、と感じていたのは静和といた時だけだった。今はその時よりもまだ誰かの温かい感情を感じることが多くなっている気がする。
(四季、怒ってたな…)
四季は由貴と顔立ちは似ているが、話していると由貴とは違う人だということがはっきりわかる。
冷静な由貴に比べて、四季は明らかに芸術家肌で、そのせいなのか感情表現がひどく純粋に見えることがある。
(そんなに怒ることないのに)
両親に対しての気持ちが希薄だというのと同じレベルで、忍は自身へ対する思いが希薄だった。
だから四季のように真剣に心配してくれる人を見ると気がひけてしまうのだ。
自分は人にそこまで心配されるような人間ではないのに、と思ってしまうのだろう。
卑屈になっているつもりはないのだが──。
携帯が鳴った。
由貴からのメールだ。
『家に着いた?』
こういうところが由貴である。忍はわずかに頬をゆるめる。何て返そう。