時は今



『着いた。心配させてごめん。彼女でもない女の子にあまり優しくしたらダメだよ。でもありがとう』

 忍のメールはその年頃の女の子にしてはシンプルな文面だ。絵文字も小文字も使わず言葉も淡々としている。

 由貴には忍のメールは読みやすい。時々何かの行事の時に女子とメールのやりとりをすることがあるが、何故こういう文面を?と思うようなメールには返信に困ることがあるのだ。





「忍、無事に着いたって」

 由貴が携帯画面を見ながら横にいた四季に知らせると、四季は部屋の机に鞄を置きながら「忍にメールしてるの?」と不機嫌そうに言った。

「ちょっと見せて」

「あ」

 由貴の手から携帯を奪うと、文面を見て少し考える。

「由貴、忍にも僕と同じこと言われてるの?」

「そんなこと言ったって、彼女がいたら友達の心配もしたらダメなわけ?」

 四季は嘆息する。友達ならいいのだ。──だが片方が友達以上に思っているとしたら?

 忍がどういう気持ちでそのメールを由貴に書いたかを考えると、やりきれない気分になってしまった。

「由貴、携帯借りるよ。忍にメールする」

「え?ちょっと…」





『四季だけど。由貴の心配はしなくていいから、何かあったら僕にメールして』

 自分のメールアドレスを入力して送信した。

 再び由貴からのメールが来て、忍は何だろうと携帯を開く。

 由貴とのメールのやりとりはだいたい1回で終わるのだ。

 文面を見て、ああ、由貴の隣りに四季がいるのだ、と状況を察する。

 その短いメールを読み返していると、何を思うのでもなく涙がこぼれてきた。

『由貴の心配はしなくていいから』

 そうだ。ずっと気を張っていた。自分の想いは気づかれてはいけないと。

 由貴と涼を困らせてしまうだけだから。

 四季はそれをわかってこういうメールをしてきたのだ。

 忍はしばらく考えて、そのメールに返信した。





『うん。考えてみる。四季、ありがとう』



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