時は今



 その時の祈の純粋さにやや毒気を抜かれたのか、最初は怒り心頭であった隆一郎も「簡単には認めん」と言いながらも、高校卒業後は祈を綾川の家に置くことを許した。

 厨房での下働きから始めた祈は持ち前の明るさで、それまで厨房になかった空気をもたらした。

 高校を卒業したばかりの可愛い少年が一生懸命働いているのを見て、「あの可愛い子は接客には出さないの?」と聞いてくる客もちらほら見えるようになったのである。

 従業員の間でも「祈くん、いいわねぇ」と、何やら癒し系の動物か何かを目の前にしているような雰囲気で、祈は可愛がられた。

 祈につらくあたっていた隆一郎も次第に祈を可愛いがるようになり、四季が生まれる頃には祈は隆一郎のことを「お父さん」と呼ぶようになっていた。

 隆一郎にとっては四季は初孫で、四季が身体が強くなかったことも隆一郎には気にかかることだったのか、四季は本当に隆一郎には大事にされたのである。

 グランドピアノを買い与えるあたりがその最たるもので、早瀬は「あたしと隆史だってこんな高価なものもらったことないよ」とこぼした。

 そういった事情があり、早瀬の子である四季と美歌は小さな頃から隆一郎に大事にされてきたのだが、勘当された隆史は未だに綾川の敷居を跨いだことはなく、同じ孫でも由貴はほとんど隆一郎と会って話したことがないという複雑な経緯がある。

 祖母の早織からすれば「隆史を勘当してからあんまり時が経ちすぎて、今さらどんな顔で会えばいいのかわからないのよ。何を意地を張っているのかしらね」とのことのようだが。



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