時は今
隆史と早瀬は二卵性双生児として生まれ、ふたり兄妹である。
隆一郎は厳格な性格で、隆史にも早瀬にも厳しかった。
隆史の方はそれでも学校では優秀な成績を修め、家のことも真面目に考えているようであったが、反骨精神旺盛な早瀬は隆一郎に逆らって、中学になると時々学校も早退して何処に行っているのかわからないというようなことも少なくはなかった。
ところが高校卒業を間近に控えた頃、隆史が家を出ると言い出した。つきあっている人が綾川の家を継げるような人ではないから、自分が出て行くと言うのである。
それが由貴の母親にあたる仁科由真だ。由真は心臓病を抱えていて、隆史が家を継いだ時に妻として立ち回れるような身体ではなかった。
当然のごとく隆一郎は激怒し、その女と別れるまでは家の敷居は跨ぐなと、隆史を勘当してしまった。
隆史が大学まで無事出られたのは母親の早織が隆史が出て行く時に、隆一郎には知られないように通帳を渡して「大学まではきちんと出なさい。元気でやりなさい」と送り出したからである。
それで隆史は大学を卒業して数学の教師になったのだ。
一方早瀬の方は隆史が家を出て行くと言い出すのと同じ時期に、妊娠したから結婚させてくれと隆一郎に頼み込む始末で、早瀬は隆一郎に殴られた。
早瀬は家のために決められた男と結婚するのがどうにも我慢がならず、子供が出来てしまえば反対出来ないだろうと考えての行動だったのである。
隆一郎に今まで逆らってきた早瀬は、初めて隆一郎に頭を下げて「私に家を継がせてくれ。私の連れてきた男に会ってくれ」と懇願したため、隆一郎はしぶく承諾した。
それが四季の父親となる明日見祈である。
祈は隆一郎が思い描いていたような男とは真逆の様相を呈していた。
素直で天真爛漫といった雰囲気の高校生で、その高校生が「早瀬さんを幸せにするので、僕に早瀬さんをください」と早瀬と同じように頭を下げたのである。