時は今
由貴はダイニングテーブルで勉強をするのが好きだ。教科書とノートを広げていても十分なスペースがあるし、その横で何かを煮込んだりも出来る。
「由貴くん」
隆史が呼んでいる。文法を暗記していた由貴は「はい」と生返事をする。
「由貴くんてば」
「はい。何?」
今度は顔をあげて問い返す。
「これは何で洗えばいいの?」
何を思ったのか自分で洗濯をしようとしているらしい。しかも手洗い。
由貴は「それとそれは洗濯機で大丈夫。それとそれはエマールにつけといて。俺が洗うから」と指示を出す。
「でもそしたら由貴くんの時間がなくなっちゃうよ」
隆史は隆史で家事を由貴に任せっきりであることが気にかかっているらしい。
「あのさ、親父。親父もまだ仕事抱えているんじゃないの?小テストの採点は終わった?何クラス分あったの?」
「由貴くんのクラスと隣りのクラス分は終わってるよ。今日は残りの採点の他に仕事はないから大丈夫」
「本当に?」
「もちろん」
由貴は立ち上がると「説明する」と洗濯場まで足を運んだ。
「由貴くん、いい主婦になれるねぇ」
隆史が褒める。由貴は若干嫌な顔になった。
「俺、親父に嫁いだ覚えないんだけど」
粉石鹸とおしゃれ着洗いと柔軟剤の使い方を説明して干しておくのまで頼んだ。
「──由貴くん」
「何」
「由貴くんは由真ちゃん以外の人でもお母さんだと思える?」
──間があった。
急にそんなこと訊かれても、と由貴は言葉に詰まる。
「たぶん、俺は綾川由真以外は母親だとは思えない。でも、親父が他にいい人を連れてくるとか言うんだったら、その人はその人として大事にすることは出来る」
由貴の言葉は淡々としていた。
「今頃どうしたの。再婚話全部蹴ってきたくせに」
「いや…。ふと思ってね」
「他に大事に出来そうな人でもいるの」
「今のところいないけどね。いつまでも由貴くんと一緒にはいられないんだと思ったらね」
「そう。──親父もいろいろ考えてるんだ」
「考えてますよ」
子供の由貴から見ても隆史と由真は似合いの夫婦だった。由真が「隆史ちゃん」と言って楽しそうに話していたことを昨日のことのように思い出す。