時は今
もうすぐ家に着くというところで大粒の雨が降り出した。最近雨がよく降る。
急いで家に駆け込んだふたりだが、若干濡れてしまった。
「涼、ちょっと待ってて。着替えるの持ってくる」
「会長、涼、大丈夫だよ」
「風邪ひくよ」
由貴はクローゼットから自分の服を持ってくると、涼に渡した。
身長が176センチある由貴の服は、身長が152センチの涼には当然大きい。
「会長の服大きい」
涼にはワンピースのようになってしまっている。
「…ごめん。こういう服しかなくて」
「ううん。ちょっと楽しい」
涼は意外に喜んでいる。困ったのは由貴の方である。──これでは涼をまともに直視できない。
ソファに座ってホットココアを飲み始めた涼だが、由貴が来ないので「会長?」とキッチンに向かって声を投げた。
「どうしたの?」
由貴がため息をついて、姿を見せる。
「涼のその姿、危険」
「え?」
「俺が変な気分になりそう」
意味を理解したのだろうか。涼は戸惑ったようだった。
「涼、帰った方がいい?」
「雨降ってるし」
「──」
「俺ここにいるから、ピアノ弾いてて。涼のピアノで『森は生きている』聴きたかったし」
「うん」
ほっとしたように涼がピアノの前に座る。
由貴にはその光景が不思議なものに見える。
そのピアノの前には由真や四季や自分が座っていたりしたが、そこにいる人が変わるだけでまったく違った光景に見えるのだ。
ピアノは変わらないのに。
由貴はダイニングテーブルの方で、一度四季が弾いていた旋律が違う手で紡ぎ出されるのを聴き始めた。