時は今
そう言われて四季は思いをめぐらせた。
何もなくなったと思ってしまった時、自分に残っていたものは確かに、ピアノを弾きたいという感情だった。
「うん。僕には生きるということとピアノを弾くことは似てる」
「そうでしょ?何がその人の生きることなのかなんて他人にはわからない。でも自分の生き方を知っている人はそこから自ずと道が開けて行く」
そこで忍の言った言葉が深く響いてきた。
『私が四季にお願いしたかったのは、森を生き返らせたかったからなの』
「──忍にね」
「うん?」
「曲を僕にお願いしたのは、森を生き返らせたかったからだと言われた」
祈は「すごい」と言う。
「それなら忍ちゃんには四季のピアノが命を持っているように聴こえたんだよ。忍ちゃんの前で何か弾いてたの?」
「ベートーヴェンの『熱情』」