時は今
「お父さんは同じ絵を何度か描いたりする?」
「それは習作のこと?」
「うん。習作でも、一度描いたものをまた別の気持ちで描く時も」
「そうだね。描くことはあるね」
祈は柔らかい表情だった。
「習作は別にして、長期間に渡ってモチーフにするようなものは以前と同じ気持ちで描く時はあまりない。その時心にある思いは違うから」
「思いは力になる?」
「なるね」
祈はその名前のごとく、しっかりとした表情で言った。
「お父さんの名前、何で『祈』なの?家がお寺とか教会だったわけじゃないんでしょう?」
「えー僕の名前?…うん。お寺でも教会でもないはずなんだけど。でも気に入ってるよ。人でなければなかった名前じゃない?希望を持つ心があるというか。希望を持つというのは生きることだと思う。人の生き方って不思議だよ。何でそんな生き方してるの?っていう人たくさんいる。僕もそう。四季だって何でピアノ弾いているの?って聞かれたら、うまく答えられないんじゃない?」