時は今
四季の手のひらが頭を撫でてくれた。しあわせだ。
「──。ここ…寒い」
冷えてきたのか、四季がコートを羽織り直す。
「そりゃそうですよ。こんなとこで眠ってたら風邪ひいちゃいますよー」
「ん…。人が来ないっていうのは魅力的なんだけど」
「やっぱり、ずっと人に囲まれてると疲れちゃいますか?」
「そうだね。時々ね」
しんとした中に、真白と四季の声だけが響く。四季が真白を手招きした。
「……。何ですか?」
近づくと、引き寄せられた。抱き寄せられていた。
「せせせ先輩」
「ふふ。あったかい。しばらくこうしてて」
はい、と答えて、おとなしくする。四季も静かになってしまったので、しーんと沈黙が訪れた。
やがて真白が四季の表情を窺うように顔を傾ける。
「…先輩」
それで四季があまり体調が良くないのだ、と察する。
「先輩、今日は真っ直ぐお家に帰りましょう。先輩、たぶん気を遣い過ぎでお疲れです。ピアノならお家でゆっくり。昨日なんか一日中あれだけきゃーきゃー騒がれてたら、神経参っちゃいます」
「……」
四季は真白を見ると「ありがとう」と言った。
真白はさっきから胸にある疑問を四季に投げかけた。
「先輩、どうしてあたしなんですか?あたし、たぶんきゃーきゃーしちゃう子のひとりですよ。先輩、疲れさせちゃうかもしれないですよ」
真白から見て、四季の周りには素敵女子はたくさんいた。四季と並んでいてもおかしくない女の先輩もたくさん。
四季は「わからない」と言葉にした。
「……。一生懸命だったから」
「──」
「雪の中、ずっと待っていて、ただこれだけ渡すためにって。それに、僕が困らないようにこの大きさ、選んでくれたのかなって」
「──先輩」
ああ、ちゃんと伝わっていたのだ。
四季はゆっくり立ち上がった。
「うん。…風邪ひかないうちに今日は帰る」
「先輩!送ります!」
「女の子でしょ。いいよ。送るよ」
「だめです!絶対です!先輩風邪ひかせたらあたしの方がつらいです!」
無理矢理言って、その日は真白の方が四季を家まで送った。