時は今



「先輩、何でそんなとこで眠ってるんですか?」

「ん…。静かだったから」

「保健室じゃだめなんですか?」

「放課後の保健室じゃ、誰かが来るから。四季くん大丈夫?って。それに、バレンタインの後だし。余計、気遣う」

 ああ、そうか。

 それでこんなとこなんだ。

「ここで少し眠って、器楽室、人が少なくなってからピアノ弾いて帰ろうと思ってた」

「そうですか」

「名前、何?」

 聞かれて、真白はまだ名前も言っていなかったことに気づいた。

「ま、真白です。木之本真白」

「ましろ?」

「はい。真っ白のましろ」

「ふーん。可愛いね」

 ああああ、先輩が先輩がそんな顔であたしを見て、そんなこと言うんですかー。

 あたし、一生分の幸運、今日で使い果たしちゃうんじゃないだろうか、とバカなことを考えた。

「…面白い」

「はい?」

「さっきから、泣いたり笑ったり」

「だ、だって、それは、先輩がそこにいるからです」

「僕のせいなんだ」

「そうですよー」

「真白は何してるの?ピアノ?」

「えっと…ピアノはちょっとだけ。あまり上手くないです」

 真白の声が小さくなった。

「その、先輩が好きすぎて、音楽も得意じゃないのに輝谷受けて、受かっちゃったものだから、授業、音楽で苦労してます」

 一応、声楽してます。

 歌ならなんとか。

 ──答えると、四季はびっくりしたようだった。

「え?音楽苦手なのにここ受けたの?」

「はい。入試のピアノの実技、必死でしたよー。明らかにあたしより上手い子、たくさんいたから」

「……」

「……。先輩、呆れてますね?」

「ううん。すごいなと思って」



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