時は今
別荘に戻ろうとすると、ピアノの音が聴こえてきた。
モーツァルトのピアノソナタ第11番。イ長調。K.V.331。
第1楽章は『きらきら星変奏曲』のような構造になっており、最初の主題を6つのバージョンに変化させながら紡がれゆく表情が楽しく美しい。
涼か由貴かのどちらかだと思われるが──。
「由貴、かな」
由貴のピアノが耳に馴染んでいる四季はそう呟く。忍は笑った。
「ピアノ、先越されちゃったね」
忍と四季が戻ってきやすいように、弾いているのかという気もした。
「おかえりなさい」
リビングに戻ってきた忍と四季を見て、涼が迎える。
「試験勉強はどうなったの?」
「少し休憩をしてから」
智がピアノをBGMに英単語の本を広げ、ソファーでくつろいでいる。
「1時間くらいはいいんじゃねぇ?」
智はさっきの件は四季に一任したのか、忍に深入りしてこなかった。忍にはその気遣いがありがたい。
淹れてくれたコーヒーを口にして「ありがとう」と言葉にする。智はこだわらない様子で「元気になったんならいいさ」と笑った。
由貴がピアノを弾きながら言った。
「この曲、何か歌詞がつけられそうだよね」
「歌詞?どんな?」
四季が聞き返し、智が「こんなか?」と言いながら、由貴の弾く曲に英単語を適当に合わせて歌った。忍が笑う。
隆史は生徒たちの雰囲気を見て「先生はお昼寝しますよー」とのんびりと言い、横になってしまった。