時は今
(忍が四季の家に──)
由貴は実感が湧かない気分で、針を動かしながらぐるぐる考えてしまう。
月曜日。登校してきた四季は衣装の生地を持ってきていて、言ったのだ。
「由貴、家庭科室、行こう」
「は?」
「人来ないし。ミシン使いたいし」
「…いいけど」
四季と話したい気分だった由貴は「家庭科室ならいろいろ話しやすいかも」とすぐに思い至る。
四季も話したい気分だったのだろうか。
ふたりは生地を持って家庭科室に移動すると、しばし束縛から解放されたように息をつく。
何かと拘束されることの多いふたりである。由貴の場合は生徒会や先生から。四季の場合は音楽科や女子から。
「女の子たちに捕まる前に由貴と話しておきたかったんだよね」
「──忍のこと?」
「うん。誰にも話してないから。忍も話してないみたいだし。こういうことって公にしておくべき?忍がいろいろ言われるのは嫌だから」
「…似たようなケースがないからね。判断難しいんだけど。聞かれたら答えたらいいとは思うけど」
「……。高遠さんがいちばん不安なんだよね」
四季の口から、そんな本音がこぼれた。
「衣装、一緒に作らないか誘った時は喜んでくれたんだけど、その後こういうことを高遠さんに話したら、どうなんだろうって思って」
「──どのみち、高遠さんには茨の道だよ」
由貴はつき放すような言い方をする。
「四季が忍のことを好きなことを知っていて、両想いであることも知っていて、それでも四季のこと好きが好きって言うんなら、話しても話さなくても高遠さん的には『痛い』ことに変わりはない。『痛い』形に若干の変化があるだけで」
「──」
「俺は高遠さんのこと嫌いじゃないけど、四季と忍のことが大切だ。だから高遠さんが個人的な感情で四季と忍のこと振り回すんなら、いい加減にしろって言ってしまう。四季も迷うことない。高遠さんがそれで文化祭でも荒れるようなら、それでも将来プロになりたいのかって言ってやればいい」
「……。そうだね」
悩みが深いように四季は遠い目をした。
「容赦ないね、由貴。偉いと思う」
「偉くない。俺は好きな人以外には愛されても迷惑にしか感じない」