時は今
そこで智は涼が隆史の顔を見つめているのに気づいた。
「先生も、忍ちゃんが会長好きなこと知っていたの…?」
「涼ちゃん」
「涼と会長だけ、知らなかったの…?」
杏とほのかは黙っている。
やがて、ほのかが言った。
「ごめんね、桜沢さん。私は、何となくゆりりんの気持ち、気づいてた。でも、ゆりりんは私に何も言わなかったし、もしゆりりんから私に気持ちを打ち明けてくれるなら、って思ったの。でも最後までゆりりんは私には何も言わなかった。だから私も桜沢さんにはこの話をしない方がいいと思ったの。話しても、桜沢さんや、会長が、心を痛めるだけだから」
杏もほのかの言葉を補うように言う。
「ゆりりんは桜沢さんも会長も大事にしたいように見えた。それに最初に気づいたのが四季くんだった。杏、四季くんのこと好きだから、四季くんが誰を想っているのか、見ていてわかったの。だから、つらそうだったゆりりんが、四季くんといて少しずつ穏やかになっているの見て、ちょっと悲しい気持ちにもなったけど、ほっとした気持ちにもなったの。ゆりりんなら四季くんが好きになっても仕方ないって思ったし」
智が元気づけるように涼に笑顔を向ける。
「忍からお前に話したんなら、忍の中ではそれは過去の話になっていて、思い出のひとつのように話せるくらいになってるってことだろ。心配すんな。私なんかおせっかいだから、忍にそうなのかって聞いたから、話してくれたみたいな感じだからな」
──と、そこまで話して、視線は隆史に向けられる。
「けど、先生は何でその話、知ってんだ?」
「あー…。えーとですねぇ…この話は解禁でいいのかな?四季くんて前の彼女のことで精神的に不安定になっていたことあったじゃないですか。四季くんとはつき合い始めて間もない時で、揺葉さん、四季くんのこと心配して、四季くんが入院した頃に前の彼女とどんな別れ方していたのか、聞きに来ていたんです。その時に四季くんとつき合い始めたのは、由貴くんが好きだった時に支えてくれたからだというようなことを話していましたね」