時は今
パスが由貴に回ると歓声が上がった。
「キャー!綾川くーん!」
…やりづらい。
由貴は片手で半ば投げやりにシュートを決める。
それでまた歓声。
由貴は愛想の「あ」の字もない疲れた表情で、コートの外に引き上げてきた。
クラスメイトの本田駿がうらやましそうに言う。
「綾川ー。おのれはあの歓声を独り占めしていいとでも思ってるのかー」
由貴はこういう状況が苦手だ。黄色い歓声。
何なんだろうか。
動物園のパンダにでもなったような気分になってしまう。
「耐えられない。引き取って」
「うぬぬ。贅沢者め。女子からの声援を受けるあの快感がわからんのか。それでも男か!」
「男だよ。…暑い。着替えてくる」
由貴はさらりとそう言って、更衣室に向かう。
クラスメイトの黒木恭介が由貴の後を追ってついてきた。
「お疲れ。結構やるね」
「恭介も。バスケやってた?」
「中学の時ね。高校はまだどうしようか考え中。由貴は?」
「中学は剣道」
「へえ…。高校でも剣道とか?」
「や…。高校では部活はしない。ピアノ弾く」
「え?ピアノ弾けんの?」
「うん」
恭介と由貴が話していると、誘いの声がかかった。
「黒木、綾川、今日帰り食べに行かねぇ?」
水曜日は授業のコマ数が少なく午後に体育の授業が入っているため、お腹が空くのである。
恭介は「行く」と返事をして、由貴は少し考えて断った。
「俺、今日寄りたい所あるから」
──涼と話をしたからか、四季と話したい気分になっていた。
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