時は今
「ああ。確か四季の方が揺葉さんを好きになってつき合い出したのかな。つき合い始めてから、揺葉忍の歌良くなったよ。彼女の歌は雛子みたいに一直線過ぎないんだよね。でも不思議とぐらつきがない。面白いよ。雛子と揺葉忍の歌をそれぞれ聴いていると。そういえば揺葉忍って同い年ではないはずなんだけど…もしかして果林と一緒じゃない?」
「そう。私、大学は輝谷だけど、高校は白王出身だから。揺葉忍は同じクラスだったわ。他の子と比にならないくらい歌声がいいの。どうしてこんな子が輝谷ではなくて白王に?って思ったんだけど、彼女、桜沢涼と親しかったからみたいね」
果林の口からは桜沢静和という名前は出ては来なかった。
静和と忍はだいぶ──七つくらい歳が離れているはずだ。涼と忍が仲がいい話は当時から白王の生徒にもよく知られていることではあったが、白王の卒業生である静和と忍が恋人同士だった話を知っている人間は少ない。
「そっか…。じゃあ四季くん、前の彼女とは別れちゃったんだね。ふーん…でも揺葉忍かぁ…。あの人、つかみどころなくて、手強くない?」
果林がなかなか正直な印象を口にした。樹は笑う。
「うん。揺葉忍は本人が黙っていても、何か気になるものがあるよね。高遠雛子みたいに『雛子がいます』って強くアピールしているんじゃないけど、それくらいの何か。しかもなまじ才能があるから、ただ者じゃないって感じで、周りも騒ぐし。果林は揺葉忍をそんなふうに思ってたんだ?」
「んー。あの人、人あたりは悪くないの。話しかけたら穏やかに返してくれるし。でも何考えているのかわかんないっていうのか…。男に執着するようなタイプにも見えないし。何となくね、いろいろなものから自由な人で、掴んだ手を離したらふわってあっさり何処かに行ってしまいそうな感じする。女の子たちの中には嫉妬して悪く言う子もいるけど、そういったものもあまり気にしていないっていうのか…。本人は意図してなくても追わせるのが上手な人よね」