時は今
雛子が好きなのは天地がひっくり返っても綾川四季だ。
四季以外の男は雛子には「それ以外の男」でしかないだろう。
果林は樹の頬を撫でながら柔らかく言った。
「樹の方からそういうふうに女の子のこと話すのってめずらしい」
「……」
「樹、果林のこと嫌いではないでしょ?心を許しているからこういうことを話すのもわかる。でも、たぶん樹にとっては果林は『友達』で、その子のことは『好き』なんだよ」
果林の言葉はすんなり樹の心に入ってきた。
「──そうだね。果林と話していると心が落ち着く。丘野樹だからという理由で声をかけてくる女じゃないから」
「うん」
「でも相手──半端なく強気な女なんだよね。好きな男しか目に入ってないし」
「誰なの?」
「高遠雛子」
「え?高遠雛子?」
果林は若干驚いたように目を見開いて、クスクス笑った。
「あー…そっか。あの子ね。確かに四季くんしか見えてなさそうだわ」
「果林の目にもそうなんだ」
「だって彼女が音楽を続けて来たのは四季くんのピアノがあったからだっていう話もあるくらいだもの。有名よ。高遠雛子が四季くんを好きな話。確かに四季くん、魅力的だものね」
「果林にも四季は魅力的?」
「んー。果林には四季くんは『可愛い』かなぁ。可愛いっていうのか、四季くんが繊細な神経の子だと思うから、ミーハー心で疲れさせちゃったら可哀想。四季くんて結構彼女大切にするタイプでしょ?来るもの拒まずで誰に対しても優しく接してくれるけど、それは四季くんなりの気遣いで、彼女は別格なんだと思う。そんな感じ、する」
果林がそう認識しているということは、四季は概ねそういう人物なのだろう。樹は納得するような表情になる。
「うん。四季は確かに彼女以外の女と話したりしていても、そういう意味で遊んでる感じはしない。あと、四季が選んだ女も良かったのかもしれない。揺葉忍」
果林が一瞬固まる。
「揺葉、忍…?」
「ああ…声楽とヴァイオリンをしてるんだけど、両方いける。知らない?コンクールで賞も取っているみたいなんだけど」
「知ってるわよ。揺葉忍って私と同い年だもの。…って、ええ?四季くん、揺葉忍とつき合ってるの?」