時は今



「四季」

 四季ならたぶん、こういう気持ちがわかるかもしれない。忍は言葉にしていった。

「言いたいことは言えばいいじゃないかということを、私、よく言われるの。でも、私の中では我慢していたり、言いたい言葉をのみこんでいたりすることが、多いわけではないの。ただ…考えていたら言葉に出来なくなることが多いだけ。言葉にするだけ、余計につらくなってしまうから」

「…うん」

「つらい感情は言葉にはしたくないの。言葉にすることで、二度、同じ感情を思い出すことになってしまうから。そう何度もつらいことを言葉に出来るほど、私は痛いことに強い人間じゃない」

「うん」

「四季はこういう気持ちはわかる?」

「そうだね。…僕なりに」

 思うところがあるのか、四季はそう答えてくれた。

「じゃあ、どういう言葉が忍を幸せにするの?」

「四季を好きな気持ちだけでいい」

 忍の口からは自分でも驚くほどのストレートな言葉がこぼれてきた。

「つらい時は、それ以外何も考えたくない」

「そう」

 四季は忍から今までに聴いたことのない歌を聴かされているような気分になっていた。

「忍の言葉、歌みたい」

 恋の歌。

 それを歌われている。

 忍は四季が夢でも見るように見ていてくれているのがわかり、幸せになった。

 でも。

「私、そんなに、素敵な言葉では歌っていないわ」

「嘘。歌っているよ」

「四季はどんな言葉で幸せになるの」

「今の忍の口からこぼれる言葉なら」

 どうかしているかもしれない。

(四季も、自分も)

 忍は恋の熱にでも侵されているように、煮詰めてとろけた砂糖のような気分で、想いを口にする。

「…四季に癒されたい」

「うん」

「私、今、四季のことでいっぱいで何言っているのかわかってないよ」

「うん。忍、可愛い」

 四季は見つめるだけではなく、忍を抱きしめたまま、額に口づけた。

(四季、あったかい…)

 痛かった心や傷が、癒えていく気がした。



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