時は今



 瞳の向こうに見える、意思の顕れ。

 四季は自分のことを悲観してはいない。自分がそれだけの思いを持って生きていることが、隆史の選んだ道や、由真や、由貴のことをも肯定することだと確信しているようだった。

 隆一郎は考える。

 もし、隆史と結ばれたのが由真ではなかったら──四季は骨髄移植を受けられなかったかもしれない。

 型が合わなければ、まず移植しようにも移植出来ないからだ。

 そうなれば、自分は四季も失っていたかもしれない。

 一度出て行けと言ってしまった息子が、たまたま四季が白血病という病気になり、由貴を介して、細く長く、けれども確かに、その手が繋ぎとめられているようだ。

 不思議な思いがした。

「お祖父様、お正月にでも、隆史おじさんと由貴に家に来てもらうのはだめ?僕もまだ完全寛解と言い渡されたわけではないけど、ここまで良くなっているし」

 誰も隆一郎に言えなかったことを四季は口にした。

 初孫の四季をいたく可愛がってきた隆一郎は、わずかに心が揺れた。

 隆史と会う──。会ったら何か変わるのだろうか。

 隆史は隆史で、自分は自分で違う道を歩いている。

 それが変わるとは思えない。

 それでも。

「親子なら会いたいんじゃないの?」

 シンプルな感情を四季は口にした。

(…会いたい、か)

 隆一郎は目を閉じた。

 四季の言葉には余計な雑念がない分、純粋に響いてきた。

「──。隆史に、私の顔が見たいなら来るように話してみればよい。来たいようだったら来させなさい」

 隆一郎はそう言って本を片手に持つと、書斎の奥にすっと入って行ってしまった。

 四季が早織の顔を見ると、早織は苦笑気味の微笑みを浮かべていた。

「会いたいのはどちらなのかしらね。…素直じゃないんですから」

 四季もほっとしたように微笑んだ。

 お互いに会いたくて会うのなら、それがいちばんいい。



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