時は今
「僕は忍と高遠さんとは別々に出会っているんだけど、忍がいたから高遠さんにも出会ったんだと思う。高遠さんがその時のことを口にするというのは、少なくとも彼女の中では大事な想いを積み重ねてきた時間があるのかもしれない」
四季はそう話した。
樹は複雑そうな表情になる。
「四季はどうすればいいと思う?」
「僕が高遠さんと話をした方がいいと思う」
四季はすらりとそう言った。
「高遠さんとはふたりきりで話したことない。忍を不安にさせたくないから、高遠さんとはふたりきりで話すことを避けてきたんだけど」
「でも、高遠さん、期待させるようなことはしないでって」
杏が言うと四季は首を振った。
「僕は高遠さんにそういう意味で期待を持たせるような接し方をしたことはない。でも、僕の何気なくしている言動が高遠さんに期待を持たせるようなものがあるのだとしたら、それはもう僕がどう接したとしても高遠さんが期待をしてしまう意識でしか僕を見てくれないということだと思う。それなら、話すだけは話してみた方がいい。手を尽くしてそれでもどうしようもなかったのなら、それは最初から誰にもどうすることも出来ない問題だったんだよ」
雛子は四季を好きでいることで傷ついた感情を伝えてきたが、四季も雛子の言動に傷ついているのだ。
忍を傷つけられもした。その時点で雛子に対する何かが切れてしまった気がする。
感情と感情をぶつけ合うだけの泥試合は、想像するだけでも心が萎えた。
それ以上何も生み出さないものになってしまうだけのような気がした。
「僕にはきつい」
四季の目から涙がこぼれた。
「僕は忍のことが好きなのに、高遠さんとこんなことで言い合いみたいになっても余計に傷つくだけだ。それでもいいじゃないかって簡単に他人に言われるのもきつい。言い合いをしたくないというのは僕の意志なのに、そう言っても高遠さんには伝わらない」
他人の感情ですら、剥き出しの感情と感情がぶつかり合うのを見て、面白いと思える感覚は、四季には無い。
四季はそういう人間なのだ。
忍が四季の心を支えるように、そっと手を繋いできた。