時は今
涼は智が「繕うもの」に分けていた衣装をひとつ取ると手縫いで縫い始めた。
智はあれこれ口は出さない。こういうことに関しては涼の方が得意だからだ。
ふたりで黙々縫っていると作業は速い。というより、涼は智の倍速で丁寧に仕上げてくるから、智も心理的な負担がすっと軽くなったようだった。
「涼さんいい仕事しますねぇ…。嫁に欲しいわ」
「忍ちゃんはもっといい仕事するよ」
「え?マジで?」
「忍ちゃん、こういうこと好きみたい。四季くん驚かせるんだって、文化祭で着る衣装、もう仕上げていたもの」
「うわー。忍さんは四季にとっちゃ、いい彼女になりましたな」
言いながら、ふと、智は真面目な顔になる。
「そういやさ、音楽科に忍のお父さんが来てたとか聞いたんだけど」
「うん…」
涼は微妙な反応を返す。智はちらりと涼に目をやる。
「忍から話聞いているのか?」
「涼も人づてに噂を聞いただけだったから、そうなの?って忍ちゃんにメール送ってみたの。そしたら『来ていたよ』って短く。忍ちゃん、お父さんのことあまり話したがらない。涼みたいに小さい頃からパパに可愛がられて育ったなら、忍ちゃんもお父さんに対して何か思うところもあったはずだけど、とうの昔にお父さんに対しては希望も何も持たなくなったから、今さら現れてもお父さんという存在を心の何処におけばいいのかわからないって言っていたこともある」
涼はそう語った。智も複雑そうな顔をした。
「まあねぇ…。そんなんだと確かに父親の存在をどう捉えていいのかわかんないとこあるわな。どんな人間なのかまったく掴めてないから、親和性もないじゃん?あまり得体の知れない部分が大きいと人間無意識のうちにそれからガードしようって本能が働くしさ。それで血だけが繋がっているって言われたってね。すぐには受け入れようがないっていうかね」