時は今
「死について、ね…」
「…考えたことある?」
「うん。小さい頃はね。身体がつらい時はよく考えたりもした。今も時々考えたりすることもある」
四季の言う「小さい頃」というのは、いつ頃からのことなのだろうか。
「小さい頃って…どれくらい?死の概念って子供の頃でもわかるものなの?」
由貴が聞くと四季はさらりと答えた。
「わかるんじゃないのかな。生きているこの世から切り離される感覚というのか。何処に行くのかは知らないけど」
そう言って、四季は不安げな表情でいる由貴を見て「何?」と聞いた。
「僕は大丈夫だよ。由貴はそんなことについて考えたりしたことない?」
「…自分の死についてはあんまり。お母さんが死んでしまった時は空虚感に取り残された感じしたけど」
「キスしてあげようか」
不意に四季が柔らかい眼差しで言ってきた。由貴は何事かという顔になる。
「何でキス」
「不安そうな顔してるから」
「だからキス?」
「美歌は喜ぶけど」
「美歌ちゃんじゃないし」
変なこと言うなよと由貴は怒ったように言う。生真面目な性格。
四季はちょっといたずらしてみたい気分になり、「由貴」と呼ぶと、由貴の振り向きざまに頬にキスをした。
「…っ。ちょ…っ。四季!」
「あはは。由貴が怒った」
「自分を安売りするなよ!」
「してないよ。誰にでもこんなことしないよ。…元気出た?」
「もう…。何考えてるんだよ」
由貴はふてくされ気味だが、四季は相変わらず四季のペースである。
「キスって言うから、変なこと思い出した」
由貴が顔をしかめながら不可解そうにぼやく。
「変なこと?」
「彼女がいるんだけど、キスの仕方がわからないって言って、クラスの奴らが騒いでたんだよね。それで、由貴、顔キレイだから練習台になれとか」
四季が笑った。
「嘘。何?ホントにそういうことあるの?」
「そんなの練習とかどうとかじゃなく、彼女に実際してみればいいんじゃないの?って言ったんだけど」
「ああ…。まあ、そうだね。そんな練習してるとか彼女が知ったら、その心境を考えると微妙だね」
「でしょ?」
「由貴なんかのクラスでもそんな話あったりするんだ?」
「ああ…。うん。あんまり露骨な話は俺は好きじゃないけどね」