時は今
「ショック残ってるんだ?」
「うん。同じ車に乗っていて、涼だけが助かっている状況だからね。とっさにお兄さんが涼庇うみたいに抱きしめたから、涼、ほとんど無傷だったみたいで。…それで受けている精神的ショックとか、容易には想像つかない」
「キツいね」
「…それでも、吉野さんはこのままでもダメだから、話してみるだけ話してみたらという感じには言ってくれたけどね」
「涼ちゃんがそうなら、彼女も相当キツかったかもしれないね。揺葉忍さん」
「ああ…。そうだね」
揺葉忍という名前で、由貴は「普通にはありえない」あの異様な光景を思い出す。
桜沢静和の彼女である揺葉忍が精神的ショックを受けたというのなら──それを視覚的に再現するというなら、まさにあの光景だ。
ごく穏やかだった日常が突如行き場のない虚空にでも放り出された感じ。
それを目にした由貴も、揺葉忍の受けたショックをそのまま受けてしまったような感覚になってしまうというのか。
「──その揺葉忍さん、今、妙なことになっているんだよね」
「妙、というと?」
「俺が見た感じ──あれはまだ生きているんだと思うんだけど、どうしたらこちらの日常に呼び戻せるのか、ちょっとわからない感じ」
「…由貴、いったい何を見たの」
「四季、俺、おかしくはなってないからね」
「うん。信じてるよ」
「ありがとう。四季、常軌を逸したものを見ても平気?気分悪くなったりしなければいいんだけど」
由貴は四季にはそれを見せた方がいちばん早いのではないかと考えた。
「何?グロテスクなもの?」
「グロテスクではないけど…。ありえない光景」
四季はそれで、困っている様子の由貴を支えるように言った。
「ふたりも見たら、もうありえなくはならないよ。どんな不可解なことでも」
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