三日月の下、君に恋した
 仕事にしてもそう。菜生は、時間をかけて企画を練ったり、綿密なスケジュールを組んだり、細々した準備を整えたりするほうが得意だった。

 何かの理由で予定が狂ったり、突発的なトラブルが起きたりすると、たちまち思考が停止して、どうしていいかわからなくなってしまう。

 そういうとき、すばやく状況を判断して臨機応変に対応するのは、いつも美也子のほうだった。


 美也子と一緒に暮らしていれば、そんなところを学べるかもと思ったこともあったけれど、こういう性格は、たぶん一生変わらないような気がする。

 そして人生に必要なのは、間違いなく、突発的な問題に対処できる能力のほうだ。


 今日はもう日曜で、てのひらの番号は跡形もなく消えていた。もちろん消える前に、携帯電話とスケジュール帳に番号を移しておいたけれど。

 昨日、何度もかけようと思ったけれど、やっぱりだめだった。


 二人で会って、食事をして、話をして、それから? それからどうするの?


 考えると怖くなった。

 はじめて言葉を交わした日は、あんなことまでしたのに何も変わらなかった。

 そういうことが、これからもくりかえされるの?


「菜生さん」

 美也子に名前を呼ばれて、はっとする。
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