三日月の下、君に恋した
「おまえ、アホだろ」

 いつの間にかすぐ後ろに葛城リョウが立っていて、冷めた目で航を見下ろしていた。

「……どういう意味だ」

「別に。まんまだけど」


 手に持っている缶コーヒーを1本航に渡して、自分も縁側に胡座を組んで座りこむと、もう1本のプルトップを開けた。

 何だかんだ言って二人ともさぼってばかりいるから、家の中の荷物の片付けはいっこうに進んでいない。

「別に急がねーし」とリョウは言うのだが、何となく、別の目論見があるような気がする。


 航はさっきまで目を通していた原稿の束をリョウに返し、いくつか気になったところを伝えた。リョウは真剣に聞いている。本人の言うとおり、執筆ははかどっていないようだった。

「でもま、原稿を書き上げても、今本を出すわけにはいかねーだろ?」

 飲み干した缶コーヒーを灰皿代わりにして、いつものようにタバコを吸いながらリョウが言った。

 航が意味を測りかねていると、リョウはあきれたように「おまえ、ほんっとにアホだな」と言った。

「俺の本が出るっつーことは、おまえの名前も本と一緒に世間にばらまかれるっつーことだろ。正体即バレじゃねーか」

「ああ……なるほど」

 言われてみればそうだった。
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