三日月の下、君に恋した
「ほんと、わけわかんないですよ。それがコピーとどういう関係があるんすかね。だいたい、うちの社長、絵なんか描いてましたっけ?」

「そんなはずないじゃん。意地悪して適当に言ったんじゃないの。結局、最初からやる気なかったんだよ」


 そうじゃない。葛城リョウはたぶん本気だ。


 どうしてかわからないけど、彼は社長が絵を描いていたことを知っている。


 そして、どうしてかわからないけど、彼も、社長に絵を描かせたがっているのだ。


「それで……どうするつもり?」

 菜生が聞くと、太一は「わかりません」と不安そうに答えた。


「一応、部長が専務を通して社長にかけあってみることになったんですけど、そんなわけのわからない依頼を社長が受けるとも思えないし……。みんな、今回の企画は潰れるだろうって言ってます」

「えっと……早瀬さんは?」

「さあ。最近は席を外していることが多くて、何をしてるのか、僕にもよくわかりません。朝からどこかに外出したまま直帰したり、会議室にパソコン持ちこんで一日中作業したり。ちょっと、声をかけにくい雰囲気なんすよね」


 太一と別れて美也子とともに自席にもどったあと、菜生はしばらく仕事に集中することができなかった。仕事が終わったら、自分から航に連絡してみようかと思った。

 だけど、話してくれるかどうかわからない、とも思う。さっきのエレベーターでの態度からしても、避けられているらしいことは菜生にもわかる。


 このまま終わりにしたいということだろうか。
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