三日月の下、君に恋した
25.ふられたかも
電話をしようと決めたのは、夢の中でアカネズミだった自分に、なぜだか後押しされたような気がしたからだった。
目が覚めて現実にもどってからも、あのとき「よかった」と思った感覚は消えず、色がついたようにいつまでも鮮明に菜生の心に残った。
それで、夢が刻んだ記憶にすがるように、菜生は航に電話をした。
電話はつながらなかった。
一日目は、何回か呼び出し音が鳴ったあと、留守電に切り替わった。
二日目も、出ないまま留守電。
三日目の今日は、電波が届かない云々のテープアナウンスだった。
菜生は携帯を床の上に落とし、ソファの上でまるくなった。玄関のほうから、がちゃがちゃと鍵の差しこまれる音がした。
リビングに近づく足音と、「ただいまあ」という美也子の声。菜生はソファに寝そべったまま「おかえり」と答える。
「何してるんですか」
美也子がソファを覗きこんで聞いた。お酒とタバコの匂いがする。