三日月の下、君に恋した
 胸の奥で、説明できない衝動が渦巻いていた。深く、底知れない世界の果てから聞こえてくる鼓動を、耳にしたような気がした。


 最後のページは肖像画だった。


 それが誰なのか、教えられなくてもひとめでわかる。羽鳥が知っているよりも、少し年を重ねたあとの、やわらかな、満ち足りた笑顔の彼女だった。

「……これは……いったい誰が……」


 手がふるえる。顔を上げると、秘書がうれしそうに笑っている。

「もうすぐここに来られます。……あ、ほら」


 秘書の視線がまっすぐに向かう先へ、羽鳥は目を向けた。見たことのある背の高い青年が、視線の先に立っていた。羽鳥に向かって深く辞儀をする。

 かすむ視界の中で、青年が近づいてくる。


 彼が彼女に似ていることに、なぜ気づかなかったのだろうと羽鳥は思った。






 静かに降りつづいた梅雨の終わりの雨が、夜になってあがった。

「よかったですね、葛城先生」

 菜生は縁側に腰掛けて、たったいま航から手渡された鱗灯舎の新刊本を手にして言った。


「CMのせいかな、やっぱりちょっとイメージが変わったみたい」

「本人はあんまりうれしそうじゃないけどな」

 航はやれやれとため息をついた。
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