三日月の下、君に恋した
 二人を見送ろうとして菜生がベンチから立ち上がると、膝の上のハンカチが地面に落ちた。菜生が拾おうとするより先に、ロングコートの男性が拾い上げた。

「これはあなたの?」


 男性は怪訝そうに顔をしかめて、手にしたハンカチを見下ろしている。そりゃそうだろう。どう見ても、大人の女が持つ代物じゃない。

 菜生は顔を上げて、はっきりと「そうです」と答えた。


 菜生にハンカチを手渡すとき、彼の口元に薄く馬鹿にしたような冷ややかな笑みが浮かぶのが見えた。

 二人が去っていくのを、菜生は黙って見送った。笑われるのは当然だけど、ああいうのは、やっぱり腹立たしい。そして気づいた。

 航にはさんざん恥ずかしいところを見られたけれど、あんなふうに笑われたことは一度もなかった。

 握りしめたハンカチを見て、もう卒業したほうがいいかもと菜生は思った。
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