三日月の下、君に恋した
 多目的ホールに着くと、太一と航は同じ部の人たちがいる方へ歩いていった。菜生と美也子は、ホールの後方で朝礼が始まるのを待った。

「専務ってどんな人かなあ」

 美也子は、新しい専務にずいぶん興味を持っているみたいだ。菜生はあまり関心がなかった。取り付く島もない航の態度にまたも少なからず傷ついて、落ち込んでいた。

 だけど、全社朝礼に現れた新しい専務を見たとき、菜生はあれ? と思った。


 どこかで会ったことがあるような気がしたのだ。


 どこだっけ。


 堂々とした態度で壇上にのぼり、流暢に就任の挨拶を述べる彼は、尊大で威圧的に見えた。前に見たときよりも……。


 菜生の頭の中は一瞬で真っ白になった。


 梶直哉(かじなおや)と名乗った新専務は、昨日公園で会った、ロングコートの男だったのだ。

 何であの人がここにいるの?

 菜生は広いホールの隅っこで立ちすくみ、パニックになった。

 あの人が新しい専務? だって、それじゃ……。


 血の気が引いていく。


 公園の老紳士は──羽鳥社長だ。
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