三日月の下、君に恋した
11.ヤな感じ



 昼休みの食堂で、菜生は友野太一からその理由を聞かされた。

「梶専務が、葛城リョウを六十周年の広告に起用したいって言い出してさ」


 声をひそめてはいるけれど、太一の口調にははっきりと不満が現れていた。

「ええー。イメージダウンって感じ」

 美也子の感想も遠慮がない。


 二人はテーブル越しに額を寄せ合うようにして、小声で話し始めた。

「そうだろ。そう思うよな、やっぱり」

「やめなよお。うちの製品までバッシングされちゃうよ」

「俺もそう思う。でも、専務がどうしてもってきかなくてさ」


 今日は、航は一緒ではないようだった。

 ほっとしているのかがっかりしているのか、菜生は自分でもよくわからなかった。

 数日前、思わず彼にすがって泣いてしまってから、まだ一度も顔を合わせていない。あのとき航は、菜生のために大切な会議に遅れてしまったんじゃないだろうか。
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