三日月の下、君に恋した
「相変わらずヤな感じ」と、美也子がぼそりと言った。

「でもやっぱかっこいいね。みんな見てるし。あの3人、目立ちすぎ」


 梶専務が、しきりに葛城リョウに話しかけているのが見える。びっくりするほどにこやかで、別人のようだ。航は二人から少し離れて立っている。会話には参加していない感じだった。

 三人は食堂中から注目を浴びつつ、選んだメニューをそれぞれ手にして、窓際の隅の予約席の札が立っているテーブルに移動した。


 テーブルについてからも、やはり話の主導権を握っているのは梶専務のようだった。航はときどき窓の外を見たりして、何となく居づらそうにしている。


「早瀬さんが名指しで押しつけられたって、どういう意味?」

 菜生は太一に聞いてみた。


「この前の会議で葛城リョウの名前があがったとき、部長も主任も反対したんだよ。そしたら専務が、交渉役に早瀬さんを指名してさ。とばっちりもいいとこだよ」

 菜生はもう一度窓際のテーブルを見た。梶専務と葛城リョウが食事の手を休めて話しているのが見えた。二人の会話を聞いているのかいないのか、航はあくまで無表情だった。
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